グリグリ

セネガルには、95%のイスラム教徒と5%のキリスト教徒、そして100%のアニミズム(原始宗教信奉者)がいると言われています。それは、赤ちゃんから国家元首まで、ほとんどの人がグリグリをつけ、そのパワーに頼っているからです。

赤ちゃんの頃からグリグリを身に付けているので、そのまま習慣になっているのかもしれません。多くのセネガル人は、グリグリなしでは生きてゆけないようです。あえて言えば、日本では仏教徒の人が神社のお守りを肌身離さず身に付けている感じでしょうか?(間違っていたら、ゴメンなさい)

【グリグリ】Gris-gris

グリグリは、身につけるお守り・魔除けのことで、腕に付けたり、腰に付けたりする。
これを付けていると、すべての危険から身を守ることができ、悪霊を追い払い、事故から守り、病気を快復し、幸運をもたらすと考えられている。
また、避妊の方法としても使用され、女性がグリグリを付けていれば、妊娠しないと信じられている。

基本的にグリグリは、自分自身を守るためのもので、魔除けの役目(悪魔を追い払い、不吉な兆しを他人に仕向ける)と、不運を予防する役目(病気を予防し、健康を維持し、病気を快復させ、事故から守る)を持っている。

心理学的には、「グリグリは、人が危機に直面している時、不確実な状況の中で不安を和らげ、心のよりどころとして持つもの」と分析されている。

グリグリの種類

⦅首から吊るすペンダント式⦆

⦅腕につける腕輪式。ンドンボ・ロホ(Ndombo Loxo)⦆

⦅腰につけるベルト式。ンドンボ・ンディッグ(Ndombo Ndigg) ⦆

妊婦が付けると安産を祈願するグリグリになる。

村の羊や馬もグリグリを付けている。

グリグリは、マラブー(イスラム教の導師)がコーランの一節を紙に書き、それを羊の皮で包み込んだ形のものが多いが、先祖が書いた短い詩を書くこともある。また、草、油、小石、骨、髪の毛、羽、爪、油、その他個人の物をグリグリの中に入れることもある(日本では、平安時代の貴族、特に女性が身に付けていた『懸守(かけもり)』と言うお守り袋に、小さな仏像やお経が入っていた)。

グリグリという言葉は、《呪物》を意味するヨルバ族のJujuが語源となったとする説。《人形》を意味するフランス語のJoujouを語源とする説。《魔術》を意味するMandingo語を語源とする、など諸説ある。

尚、「グリグリ」という言葉は元来フランス語で、ウォロフ語ではンドンボ(Ndombo)と言う。むしろ、「グリグリ」という言葉の方が、セネガルでは広く使われている。

タリスマン(Talisman)というお守りもある。タリスマンは、魔術の力など、補助的なパワーを得るために身に付ける。

タリスマンの語源はアラブ語の« tilsamまたはtilasm »で、これは、ギリシャ語の« telesma » (宗教儀式)から来ている。

タリスマン

日常生活におけるグリグリ

セネガルの日刊紙、⦅Le Soleil⦆がグリグリに関する興味深いアンケートを行っている:

セネガル人の母親の話:
「試験の時に、子供にグリグリグリグリを付けるように言います。試験に受かることはもちろん、子供を守ってくれるからです。大切なことは、子供がそれを信じる、信じないではなく、子供が私のためにグリグリをつけてくれることです」

高校生の話:
「グリグリをつけるのは、試験を受ける時の精神状態によります。自分に自信があればそれは古臭いように思えるし、不安があると自分の足りない知識をグリグリが支えてくれるような気がするのです」

社会学科の学生の話:
「グリグリの精神的な役割は、欧米で用いられている一種の強壮剤のプラシーボ(偽薬)のようなものです。試験は他の人との競争です。試験に合格するチャンスをものにするには、他の人から受けるネガティブな影響をコントロールする必要があります。グリグリはそのような悪運から私達を守ってくれるのです」

哲学科の学生の話:
「多くの学生は、フェティシズムの効果に幻滅しているにもかかわらず、家族関係を保つために嫌な顔もせず、グリグリ受け入れている。が、そのうちに机の引き出しの奥にしまいこんでしまう。グリグリによって、僕はある種の逃げ道を見い出し、自由に解き放たれた。私達はこの神秘的な世界に生まれた以上、人から信仰を奪ってはいけないと思う」

文学科の学生の話:
「試験結果が悪くて、グリグリの効果が発揮できなかった場合、マラブーの無能さが非難されます。グリグリは精神的な助け舟になるにしても、成功のためにの必要不可欠条件ではありません。人間の義務である努力を怠って神様にお願いしてはいけないと思います。努力の結果は最終的に神様が決めることです。宗教の本質は、人が神様に従い、神様に全幅の信頼を置くことです」

ある大会社の幹部の話:
「グリグリを依頼する時は、マラブー(イスラム教の導師)なら誰でも良いのではない。私の母は、古くから知っているマラブーに私を連れて行き、グリグリを作らせました。私がグリグリをつけるのを嫌がると、『このグリグリは、お前に悪い事をする人から守ってくれるんだよ』と言って、無理矢理押しつけられました。家に忘れたふりをすると、わざわざ会社まで持って来たりしました。また、私が外出するたびに、母は必ず私の腰の周りを手で触れて、グリグリを付けているかどうか確かめていました。つけていないと、母にひどく叱られました」

IT関連のスタッフの話:
「グリグリをつけるのは義務ではありません。僕自身はグリグリをめったにつけません。グリグリよりも、おまじないの飲み物を好みます。飲み物の方が直接効果が表れます。それにグリグリは紛失することがありますが、おまじないの飲み物は一生楽しめます。《悪》は会社の社長も社員も失業者も区別はありません。すべての人に無差別に襲いかかります。みんな、自分の未来への保証が欲しいのです」

社会学者の話:
「人は、自分の近い将来を疑うのが怖いので、最大限の保証を得て安心したいと思うのです。それ故に、考えられるすべての解決方法を歓迎するのです。変動しやすい不安定な環境に住んでいる私達は、自分自身を守り、強い力を持つ必要性を感じます。それは、インテリや金持ちは関係なく、すべての人が求めているものです」

こんなジョークがある。

村人A「おらの羊とヤギが盗まれてしまっただ」

村人B「グリグリを付けていなかったからだよ」

ダカールのレオポール・セダール・サンゴール空港で、実際に次のような珍事件が発生した:

一人の男が、国際線の搭乗ゲートに強引に入り込もうとした。

駆けつけた空港警察官が男を取り押さえ職務質問をすると、男は『外国に行きたい』と平然と答えた。

警察官が身分証明書を求めると、男は真新しいパスポートと免許証を見せた。

警察官がさらに航空券の提示を求めると、男は「持ってない」と悪びれもなく答え、そして誇らしげに言った。

『俺が大金を支払ったマラブーは、グリグリを付けていれば、問題なく飛行機に乗れる、と言っていた』と。

警察官が男の衣服を脱がせ身体検査をすると、驚く事に、男の体中に無数のグリグリが付けられていた。

男の話しでは、グリグリをたくさん体に付ければ、空港の搭乗ゲートでも到着ゲートでも『透明人間』になれると、マラブーから保証されたという。

男は直ちに身柄を警察署に引き渡された。

信仰に篤いセネガルのイスラム教徒は、コーランを厳格に尊重しながらも、マラブーに安易に頼る傾向がある。

イスラム教とグリグリ

イスラム教ではグリグリが厳格に禁止されている。グリグリを持つことは、神様への信頼に対する裏切りと見なされ、重大な罪となる。敬虔なイスラム教徒にとっては、グリグリは邪道そのもである。

イスラム学者によると、

「グリグリには、次の2つのタイプがある。

A. コーランの章句を書いた紙を入れたグリグリ。

B. 宝貝、動物の角、植物の根を用いたグリグリ。

Bのタイプのグリグリを非難するイスラム教徒は多い。

グリグリを信じていても、私達の運命は生まれてから死ぬまでアッラーによってすでに決められている。善い事をする人は祝福され、悪い事をする人は罰せられる。アッラーは唯一無二である。

イスラム教は、《Bokalé》(あなたを守ってくれたのは神様ではなく、グリグリが守ってくれた、と信じる考え)を禁じている。

マラブーの中には、いんちきマラブーCharlatanもいるが、本当のマラブーはコーランに精通し、人々に良き道と正しい道を導いてくれる。本当のマラブーがグリグリを作るが、そのグリグリには、Bokalé(あなたを守ってくれたのは神様ではなく、グリグリが守ってくれた、と信じる考え)を排除し、幸運を呼ぶと言われるコーランの章句のみが用いられる。
最も英知があり、信仰に篤いマラブーだけが、未来を知ることに到達できる」

預言者ムハンマドは、グリグリを身につけたことなかったが、いとこのIbn Abassは、病気を治すコーランの章句を理解していない病人に、グリグリをつけた最初の人だった。ただし、病気が治ると、すぐにグリグリを外させた。それ以来、イスラム教徒は、コーランの章句を理解していない人には、一定の条件付きで、コーランの章句を入れたグリグリをつけさせることにした。そして、目的が達せられると、直ちにグリグリを外させた。また、グリグリは穢れた場所で身に付けてはいけないことになっていた。
Ibn Abassは、《薬》と見なされているコーランの章句のみを適用している。

グリグリに関するマンゴ・パークの報告

マンゴ・パーク(1771~1806)は旅行記『ニジェール探検行』でグリグリについて次のように記している。

「ある黒人は、ヘビやワニにかまれないよう身を守るためにサフィ(グリグリのこと)を身につけている。この場合、サフィはヘビの皮やワニの皮で包み、足首に結びつける。また、ある黒人は、戦いの時に自分の家族を敵の武器から守るためのお守りとする。しかし、このお守りは、病気や飢えや渇きから身を守ったり、また、いかなる状況のもとでも、いかなる出来事にあっても、絶対者の愛顧が得られるようにというために用いられることが最も多い」

アメリカ合衆国などに売り飛ばされたアフリカの奴隷たちは、グリグリを肌身離さず持ち続け、いつか解放される日を夢見ながら、死後も取り外すことなく、墓場まで持って行ったという…

次のページでグリグリがどのように作られるかを紹介します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください