グリグリ

グリグリの製作

セネガルの中央部(ダカールから155km)に位置するFatickのマラブー(イスラム教の伝道師)に、実際にグリグリを作ってもらった。

マラブーは、ティジャーンヌ派で、名前は、Papa Idrissa Samb。奥さんが3人いる。

グリグリ作成に必要な費用は:

マラブーへの謝礼 5,000FCFA (約1,000円)

グリグリ作成代 1,000FCFA (約200円)

合計6,000FCFA (約1,200円)

1. 紙にコーランの一節を書く

マラブーは、まず、コーランのお祈りの言葉を口の中でつぶやく。そのつぶやきを手に吹き付け、ビスミッラーと小さく言って、さらさらとアラブ語で何かを紙に書き始める。A4のコピー用紙の表面と裏面いっぱいに書く。約30分間、集中して書き続ける。その間、静謐な時間が流れていった。

正直言って、マラブーが書いているのは、見掛け倒しの「なんちゃって」アラブ語かと思っていた。その時はあまり信用はしていなかったが、何が書かれているか、ずっと気になっていた。

時が過ぎ、いつのまにか完璧に忘れ去ってしまっていたが、今回このブログを書くにあたり、知り合いのアルジェリア人イスラム学者、Kamel Chekkat氏に、マラブーが書いたアラブ語を調べてもらうことを思いついた。そして、その結果、アラブ語の文章は、コーランの第2章《牝牛》の255節であることが判明した。

マラブーが何を書いていたかを、格調高い井筒俊彦氏の名訳で確認できる:

《アッラー、此の生ける神、永遠の神をおいて他に神はいない。
まどろみも睡りも彼(アッラー)を摑むことはなく、天にあるもの、地にあるものことごとくあげて彼に属す。
誰あって、その御許しなしに彼(アッラー)に取りなしをなしえようぞ。
彼は人間の前にあることもうしろにあることもすべて知悉し給う。
が、人間は、(その広大なる)知恵の一部を覗かせていただくのもひとえに御心次第。
その王座は蒼穹と大地を蓋ってひろがり、しかも彼はそれらを二つながらに支え持って倦みつかれ給うこともない。
まことに彼こそはいと高く、いとも大なる神》

私が驚いたのは、マラブーがコーランの一節を正確に覚えていて、それをイスラム教徒にも分かる正確なアラブ語で書いていたことだ。子供の時にコーラン学校で学んだことは、イスラム教の基礎をしっかりと築き上げていたということが分かる。マラブーには深い尊敬の念を持つと同時に、彼を疑っていた自分がとても恥ずかしく思った。

2. 折りたたむ
3. 綿で優しく包む。
4. 出来上がり
5. 全員でお祈りをする

革のカバーを作る

コーランの一節を書いた紙を、靴屋さん(Cordonnier)に持って行き、革のカバーを作っ

てもらう。1個400FCFA (約80円)。古くなった革の取り換えもやってくれる。

6. セメントの紙袋を短冊状に切る
7. 切った紙を、綿が巻かれているコーランに貼り付ける

革は山羊の革を使用。羊の革は柔らかすぎるとのこと。とかげの皮や、ンダンクという木の樹皮を使うこともある。
この革は使っているうちにきれいなあめ色になってゆく。

9. 革を水で湿らせ、柔らかくする
10. びんの上で、革の汚れをナイフで削ぐ
11. コーランを叩いて形を整える
12. 革にのりをつける
13. 革の上にコーランを置く
14. 縫いしろを作る
15. 余分な縫いしろを切取る
16. せんまい通しで穴をあける
17. 端を糸で縫う
(昔は糸の代わりに動物の細いtendon(すじ)を
用いていた)
18. 縫い目を整える
19. これで完成!と思いきや…
20. 革の上にナイフで模様を彫る
21. 完成

このグリグリは長い間、筆者と一緒に行動していましたが、アルジェリアのプロジェクトの宿舎で生活していた時、誤ってズボンに取り付けたまま洗濯に出してしまい、それっきり紛失してしまいました。もし誰かがこのグリグリを持っているとしたら、その人はきっと幸せになっているだろうと思います。

シャンゼリゼ通りを散歩する筆者のグリグリ

参考文献

・『コーラン 上』井筒俊彦訳 (岩波文庫)

・Sud (1999年4月14日付)

・Le Soleil (1999年6月24日付)

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