セネガルの現代美術 3/5

イブラヒマ・ケべ  Ibrahima KEBE

1955年カオラックに生まれる。

1976年~1979年、国立芸術学院(Institut National des Arts)卒業。

サンゴールに招聘されたフランス人教師ピエール・ロッドの生徒。

久しぶりにセネガルに戻って来たら、フランス文化センターの外壁に、首が異様に長い大人達の集団や、子供や、猫たちが描かれていた。まるで子供が描いたかのように一見稚拙で風変りな絵だった。一人一人の顔は個性的で性格や人生が読み取れるようだった。

フランス文化センターの外壁に描かれたケべの絵

フランス文化センターの外壁に描かれたケべの絵

その絵を描いた作家がイブラヒマ・ケべだと直ぐに分かった。どこかユーモラスで、見る人の気持ちをわくわくさせ、温かく、そして優しくしてくれる、そんな絵を描くのは彼しかいなかった。

その絵をみながら筆者は、ダカールの芸術村に住んでいたケべとのインタビューを懐かしく思い出した:

筆者:モディリアーニはアフリカの彫刻から影響を受けて、首の長い人物を描いていますが、あなたの絵の人物はなぜ首が長いのですか?

ケべ:首が長いのは、人間の《賢さ》を意味しています。人間は未来を考えることができる動物だからです。キリンのように長い首で遠くを見つめることができます。それが人間の《賢さ》です。

美術学校の先生が「あなたには才能がある。しかし自分なりの表現方法を創り出さなければならない」と私に言いました。その日以来、私は色々な試行錯誤を繰り返しました。(訳注:この先生とは、あのピエール・ロッドのことである)

ある日、じゃがいもを切り、そこに目を付け、鼻を付け、人間の顔にし、そして長い首をつけました。それを見た時、私は、「これが自分の表現だ!」と思いました。

『男と女』

筆者:テーマは何ですか?

ケべ: 「人間の日常生活」です。私は自分のことを《日常生活の番人》と呼んでいます。人間の共通点を探り出し、それを描くことが人間の普遍のテーマだと思います。私自身、人間が表現する感情を、絵を通して第3者に伝える《仲介者》だと思っています。

『秘密の話し』

筆者:私がパリに住んでいた時、日本人の画家と知り合いになりました。その画家は、「子供の絵は素晴らしい。絵が純粋で気取っていない。子供のような迷いのない線で絵を描きたい。」と言っていましたが、それはまさにあなたの絵だと思いました。

ケべ:そのような指摘をしてもらい大変嬉しく思います。自分では意識していませんが、西欧の批評家は私の絵を《素朴派》に分類しているようです。《プリミティブ・アート》と呼ぶ人もいます。

『羊飼い』

筆者:人間、特に、子供たちが集まっている絵には、子供たち1人1人の顔の表現に、彼らの感情を読み取ることができます。これは、あなた独特の表現だと思います。

ケべ:私は絵を描く時は、まず、マッチ棒で輪郭を描きます。筆は使いません。マッチ棒を使うことにより、より人間の自然性を引き出すことができるのです。

最初は私はとても臆病で、常に、私は何をしているのかを自問していました。今、私は人を真正面に見ることができますし、私の作品においても、形や色をより楽しく表現できるし、自分自身自由に感じています。

『大家族』

マッチ棒
マッチ棒

彼の絵を見ると、私たちの視線はまず、純粋で対立的な色彩と人物に引き付けられる。

そして粗雑な線と形の下には多くの感情が隠れ、人々の日常生活が見え始める。

そこには作者の遊び心があり、他の画家では感知できない世界に鑑賞者を引き連れて行く。

作品は、子供から老人まで幅広い世代に親しまれている。

『街の通りの風景』

ケべの作品について、ベルギーの美術評論家、ダニエル・ソティオ氏Daniel Sotiauxが次のような記事を書いている(筆者訳):

「ケべはかつてガラス絵を制作していたことがあり、その伝統的な手法を自分の絵の中に取り入れて、ダカールの下町メディナ地区の人々の生活や、光景、移ろいゆく時を描いている」

「ほぼ単色の人物は、パステルの技法で巧みに描かれた背景に、輪郭がはっきりと浮かび上がる。これを背景として、人物の色は本質に迫って行く。それは力強くそして美しく表現された人間の本質である

色は感情を目覚めさせ、人物の動きやまなざしに魂を与える

ケべはこの表現を完璧にコントロールし、ゴーギャンやマチスの作品のように独自の作風をつくり上げている」

『女性』

「ケべは誠実で、作品は彼の不安と性格を表している。彼は民衆の画家である。自分の未来のイメージを持ち、それを探し求めながら社会に入り込んでゆく。

アフリカ人の笑顔の裏にごまかしが隠されていないか?悲惨な事実が隠されていないか?ケべは《心の中の物語》を追及する

『家族』

「ケべは、展覧会を通じ、見えないものを見ることを、色の熱量の裏側を見ることを、鮮やかな青色、黄色、黄土色、赤色の裏側の冷たさを感じることを、群衆の中の孤独や、猫の歩くリズムで進む時間や、人間の中にある人間の普遍的な声を感じ取ることを教えてくれる」

『グリオ』

ケべのアトリエ
デッサン

デッサン
デッサン

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