伝統楽器

タンビン Tambine

タンビン

プル族の羊飼いたちの横笛。

羊飼いたちは、サバンナのだだっ広い草原で、羊の群れを追いながらタンビンを吹く。

羊を一ヶ所に集めてその日の仕事が終わると、誰もいないたき火のそばで独りタンビンを吹く。どこか切なく、哀愁にみちた音色は草原の民の癒しの笛である。

フーレFuléとも呼ばれる。また、フリュート・プル Flûte Peul(プル族の横笛)という名称もよく使われる。

セネガル川やガンビア川やニジェール川の水源がある、ギニアのフータ・ジャロンFouta-Djallon地方にいたプル族の遊牧民の横笛が起源。

(因みに、プル族はエジプトの黒人とヘブライ人との混血と言われている)

タンビンは、イスラム教徒へのアザーン(礼拝の呼びかけ)として使われたり、《聖戦》の際に、タンビンを通じて戦争の作戦を送信したりした。プル民族は、敵に分からないように命令を受け取っていた。

「タンビン」の名前は、笛を作っている材料の植物の名前が由来。かつては、動物の角やパパイアの葉を使用していたが、現在は、ヒエの茎、葦、金属管、ヤシの木、籐、竹等を用いている。

湿地帯で葦を取り、村に持ち帰る。その茎を乾燥させ、好みの音階に応じた長さに切る。広い方の開口部をひょうたんの先端で塞ぎ、蜜ろうを塗る。熱した金属棒または木の棒で3つの穴を開ける。

タンビンの崇高な音を得るためには、自然の4要素を必要とする。

葦が育つためには土と水が必要で、火を用いて笛に穴を開け、吹きかける空気によって音を得ることができる。

タンビンは、現在でも葦で作られているが、ヒエの茎や金属管も使用されている。

息を吹き付ける吹き口は、丸い形ではなく四角形。

指穴は3つある(ミ、ファ、ソまたはラ)。(4つある場合もある)

息の調整で倍音を使い、5つの全音と2つの半音を含む全音階を出す。

強く息を吹きかけ、歌を歌うように音を出す。時々、小さな叫び声を発しアクセントをつける。尺八の音に似ている。

タンビンは、独りで演奏することが多いが、4~5人で一緒に演奏することもある。

セネガルのジャズグループ《ナコジェNqkodjé》のリーダー、トーマス・ヴァルへThomas Valheは、本記事の冒頭で紹介した『サイ・サイ・サイドゥSaï Saï Saidou』の曲の中でタンビンを演奏している。

筆者はセネガルの田舎に何度も足を運んだが、タンビンを吹いている羊飼いに出くわしたことは一度もなかった。

タンビン
タンビンを吹く羊飼いの少年

ハラム Xalam

ハラム

現地で録音したハラムの演奏を聴いてください。

1.アブディーネ

2.ンジャロ

西アフリカでコラに次いでポピュラーなウォロフ族の弦楽器。

セネガルの「リュート」、ウォロフ族の「ギター」とも呼ばれている。

起源はエジプト時代に遡るという説や、マリと言う説もある。

半割のひょうたんのボディにヤギの皮または牛の皮が張ってある。

弦の数は3本(地方によっては4本)で、ナイロン弦が使われている。音色は三味線に似ている。

ボディがひょうたんでできているものもある。

かつてはグリオがハラムを弾きながら、王様やお妃の前でマンダング帝国の歴史を語った。
現在は、結婚式、命名式などで演奏される。

ボロンやエコンティングなどと演奏される。

似た楽器で、バンバラ族の「ジェリ・ンゴニDjéli n’goni」(グリオのリュート)がある。

ハラムに関するエピソード

ハラムを作った男は、その楽器を弾く機会がなかった。
ある日、石の上に座っていると、
エル・ハッジ・シェイク・ウマル・フチュ・タルEl hadji Cheik Oumar Foutiyou Tall(フランス植民地軍に抵抗した英雄)の弟子たちが、やって来て、「エル・ハッジ・フチュ・タルを見なかったか?」と男に尋ねた。
男が、「あまり長くないズボンをはいた、中くらいの背丈の人が、ここバンジャガラを通って行きました」と、その方向を示し、ハラムを演奏しながら歌を歌った。
この歌は、男が最初にハラムを演奏して歌った歌で、「ターラTaara」と呼ばれ、後に、ユッスー・ンドゥールと並ぶセネガルのスーパースター、ババ・マールBaaba Maalのデビュー曲となった。

セネガルのハラムのレジェンド2人の演奏を聴いてください。

1.サンバ・ジャバレ・サンブ Samba Djabaré Samb

サンバ・ジャバレ・サンブ

1924年、ルガ州のグリオの家に生まれる。

《ハラムの大家》と呼ばれていた。

1962年、ダニエル・ソラノ国立劇場に、《伝統歌劇団Ensemble lyrique traditionnel》を創立する。

2006年、ユネスコの「無形文化財」に認定された。

2019年9月、95歳で亡くなった。

2.アマドゥ・ンジャイ・サンブ Amadou Ndiaye Samb

1920年、ルガ州のグリオの家に生まれ、3歳からハラムを習い始める。

15歳の時、地区で催される結婚式や命名式で演奏を始める。

サンバ・ジャバレ・サンブと並んで、ハラムの名手。

1962年、ダニエル・ソラノ国立劇場に《伝統歌劇団Ensemble lyrique traditionnel》を、サンバ・ジャバレ・サンブと共に創立する。

サンバ・ジャバレ・サンブと並ぶハラムの名手。

1991年、71歳で亡くなった。

リーティ Riiti  

ウォロフ族のリーティ

プル族およびセレール族の伝統的な楽器。

プル族のヴァイオリンと呼ばれている、

小さな半割のひょうたんに、ベールBerr(ウルシ科の木)またはカッドKadd(アカシアの木)またはパンヤノキFromagerの板を取り付け、オオトカゲの皮を張る。

弦と弓に、馬の尻尾を用いている。

胴体の半割ひょうたんには、音を発するための穴があいている。

弦は1本しかなく、弓で擦って演奏し、鋭い5音の音を出すことができる。

結婚式、出産祝い、命名式などの祝賀行事で演奏される。

現地で録音したリーティの演奏を聴いてください。

1.《動物を呼ぶ時に羊飼いが弾く曲》

2.《女性が入れ墨をする時の歌》

3.《奴隷を売る男の歌》

どういうわけか最後に、ミヤザキ、ミヤザキと歌っている。

セレール族のリーティ

エコンティン Ekonting

エコンティン

セネガル南部カザマンス地方のジョラ族の弦楽器。

別名「田舎のリュート」。

半割のひょうたんを裏返しにした胴体にヤギの皮が張ってある。

長い棹には竹を用いる。

弦は、羊の腸で作った糸または釣糸のナイロン弦を使用し、全部で3本ある。

2本の長い弦でメロディーを弾き、残りの1本の短い弦で装飾音を出す。

農作業の歌や狩りの歌を歌いながら、人差し指で長い弦を、親指で短い弦を弾く。

村人たちはヤシ酒を飲みながら、エコンティンの演奏に耳を傾けた。

奴隷時代、アメリカに送られた黒人たちが、エコンティンを広め、バンジョーのルーツとなった楽器と言われている。

ラ・ジータ La Gita

ラ・ジータ

ひょうたんのパーカッション。

マリのセグSégou地方で生まれた楽器。

直径40cmくらいの大きい半割のひょうたんに、タカラ貝がひもでぶら下がっている。

ひょうたんを回すと、カシャカシャと音がして、マラカスのようにリズムを刻む。

結婚式の時に、思春期に達した少女が花嫁に対して演奏する。

ニジェールのソンガイ族の場合、伝統的ダンス、タカンバTakanbaを伴奏する時、ラ・ジータのひょうたんを腰巻またはブーブーの上にひっくり返し、その底を手のひらまたはスリッパで叩く。

参考文献・WEBサイト

・『Balafon – Guide des Instruments de Musique de A à Z』Fance Minéraux

・『Tout comprendre au balafon』Noah Deacon  Jazz en ligne

・『Bougarabou』Nago Seck   Afrisson

・『Balafon des communautés Sénoufos』Wikipedia

・『Les origines du djembé : un voyage à travers son histoire africaine』Faire du Djembé

・『Quelles sont les origines du Djembé ? Découvrez son histoire』Instants du monde

・『L’origine du Kalimba et son histoire』HLURU

・『Sénégal : Hommage à Doudou Ndiaye Rose 』Philharmonie de Paris

・『Le Sabar』Afrisson

・『Coin d’histoire / Mansa Waly Mané : Histoire d’un souverain atypique』La Question.INFO

・『Cahier d’ethnomusicologie l’artiste caméléon』Luciana Penna-Diaw Photo Christophe Rosenberg

・『アフリカの音の世界』塚田 健一  新書館

・『音楽の世界図』エナジー対話 団伊久磨+小泉文夫  

・『バラフォン』ジョゼフ・ンコシ・河辺知美 みんぱく2003年7月号

・『カメルーンの親指ピアノ』池谷和信 みんぱく 2003年10月号

・『マリンバってどんな楽器?歴史やその魅力について解説【木琴との違いとは】』北村 萌 edy.music

・『バラフォンとマリンバの違いは?写真付きで歴史を解説』吉岡 リナ アラ昆布

・『文化 バラフォン』コノンバ・トラオレ  駐日ブルキナファソ大使館

・『バラフォン』WEB 楽器ミュージアム 

・『アフリカ・ポピュラー音楽の宝庫』各務美紀 「セネガルとカーボベルデを知るための60章」明石書店

・『民族楽器コラで祈り歌うカトリック修道院 セネガル』AFP BB News

・『ドゥドゥ・ンジャイ・ローズ、セネガル人音楽家』フラン・パルレ Franc-Parler

・『Sabar Paradise』Doudou Ndiaye Rose 公式サイト

・『民族楽器の旅 サバール(セネガル)』朝日マリオン・コム

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