カリテ (シアバターノキ)

《探検家が見たシア・バター》

かつてサヘル以南を目指した探検家たちは、そこでシア・バターと出会い、貴重な報告を残している。

イブン・バットゥータ

1349年から1354年に、サハラ砂漠からマリを横断したモロッコの旅行家イブン・バットゥータ(1304~1369)は、その著『三大陸周遊記』で カリテを最初に紹介したと言われている。

『この種の木々の中には、果実は、ミラベル、りんご、桃、アブリコに似ている。が全くべつの種類のものである… その種をつぶして油をしぼり、炊事、灯火、油揚げなどに用いたり、身体に塗ったり、土に混ぜて家の壁を塗ったりする。』(前嶋信次訳)

当時、シア・バターはすでに、食用、料理、医療、薬用、化粧品として使われていたようである。

マンゴ・パーク

1796年にニジェール川に達した探検家のマンゴ・パークは、旅行記『マンゴ・パークのアフリカの旅』の中で、シア・バターについて記述している。(以下、『ニジェール探検行』マンゴ・パーク 森本哲郎・廣瀬裕子 訳)

・「奴隷商人は、スラティと呼ばれ、白人に売るために連れてくる奴隷や商品の外に、原産地の鉄、香りのよいゴムや乳香、シア・トゥルゥとよばれる日用品(文字通り訳すと「木のバター」を意味する)を沿岸地方の住民に供給する。熱湯で煮た木の実の種から抽出されるもので、バターのような外見をしており、堅くて、実際バターのすばらしい代用品となる。住民の重要な食物で、油の代用としてさまざまな用途に役立っている。だからその需要はたいへん多い」

・「(レスリングの試合に出場しているレスラー達は)衣類を脱いで短いパンツ一枚になり、皮膚に油、またはシア・バター(西アフリカ産アカテツ科の木の実からとる植物性バター。食用または石鹸)を塗ってもらう」

・「カッパという村では、人びとはどこでもシアの木から実をとる作業をしていたが、上述したように、この実から植物性バターがつくられる。この木はバンバラのこの地域全体にたくさん生えている。これらは土民によって植えられたものではなく、森林に自生している。耕作のために森林が伐採されるときでもこの木だけは残される。木そのものはアメリカカシによく似ていて、実はまず日光に干し、その種子を煮てバターをとるが、その実は、どこかスペインのオリーブに似ている。種子はうすい緑の皮の中の柔らかい果肉に包まれていて、その種からとるバターは、塩気なしで一年中もつという利点を持っている上に、これまでに味わった牛乳からとるバターより白くしまっていて、私の味覚では、もっとも豊かな味に思える。この木の栽培とバターの製造は、この国や近隣の国々の産業の主要な目標の一つであり、また、アフリカ大陸の国々の間の商業の重要な商品となっている」

・「その小屋の一隅に、シアの木の実を乾燥させるための釜がつくられてあった。その釜には荷車半分ほどの実が入っていて、下には薪が燃えていた。人びとの話によると、この実は三日ですっかり乾燥し、それを粉にして煮るのだそうである。こうしてつくられるバターは、日光で乾かした実からとるものより良質だということだった。雨季には日光に干す作業が厄介で、しかもいい結果が得られないというのである」

・「患者はやわらかい敷物の上に寝かされ、骨折した手、足は冷水にひたす。膿瘍はすべて焼灼法で切開する。そして繃帯は柔らかい木の葉か、シア・バターか、牛の糞のいずれかをそれぞれ必要に応じて用いる」

・「午後二時ごろに、食事として、シア・バターを少し加えた一種の早作りプディングのようなものを食べる。しかし、夕食がもっとも大事な食事で真夜中にやっと準備される。これは大ていクスクスで、少量の動物の肉か、シア・バターをまぜてある」

・「物々交換の際は、金を受け取った者が、自分のティーリー・キシ(黒豆)で品物をはかる。その豆は、ときどき重くするために、不正にシア・バターにひたされることがある」

・「われわれは、土産の鉄、シア・バター、その他ガンビアで売る物資を購入するために、二日間バニセライルに留まった」

・「そのスラティ(奴隷商人)は、この奴隷をカルファの奴隷の一人と交換してもらいたかったので、この申し出に応じてくれるようにカルファを説得するため、布やシア・バターを贈った」

・「26日の朝、タンバクンダを後にした時、カルファはこの町から西にはシアの木はもうないと言った。私はマンディングからこの木の葉と花を持ってきたが、それは途中でひどく傷んでしまったので、ここで別種のシアを採取しておこうと思った。その実の恰好からみて、このシアの木はあきらかにサポタ(アカテツ)科に属するようで、チャールス・ハミルトン大尉が『アジア探検記』(第1巻、300ページ)の中で描写しているムドサの木にいくらか似ている」

ルネ・カイエ

・1828年に、ヨーロッパ人として初めてティンブクトゥから生還した、フランス人のルネ・カイエも、旅行記『ティンブクトゥへの旅』の中で、シア・バターについて記述している:

「シアの木はKankan-Fodéaの草原に生えている。シアの木の実をもらったので食べてみたが、まあまあおいしかった。ここの村人達は、西洋人が動物性のバターを食べるように、シアの木のバターを好んで食べる。彼らはまた、これを痛み止めや傷口に使用する。ヨーロッパの国の会社に少量のシア・バターを販売しているようだ」

ルネ・カイエが報告したシア・バターの作り方

また、ルネ・カイエは、『ティンブクトゥへの旅』の第13章で、シア・バターの作り方を詳しく述べているが、その工程(潰す→煎る→練る)は、昔も今も基本的に同じである:

1.種子を、数日間日干しにして乾燥させ、臼の中に入れ粉状につぶす。すると小麦の麩(ふすま)の色になる。

2.種子をつぶしたら、ひょうたんのボウルに入れる。

3.上から少しなまぬるい水をかけ、パスタの堅さになるまで手でこねる。

4.十分こねたかどうかを確かめる際、なまぬるい水を少し加える。

5.油脂部分が麩から剥がれ、水面に上がってきたら、なまぬるい水を数回加える。

6.麩から剥がれたバターが浮かんでくるように、十分に行う。

7.木製のお玉でかき集め、ひょうたんのボウルに入れて強火で煮る。

8.くっ付いて残っている麩が剥がれるように、よく泡立てる。

9.じゅうぶん煮えたら、別のひょうたんのボウルに移すが、より取りやすくするため、ひょうたんの底に水を少し入れておく。

10.できあがったバターは、木の葉っぱに包むと、2年間傷むことなく保管できる。

また、ルネ・カイエは、シア・バターに関し、次の点についても報告している:
・シア・バターは灰白色で石鹸のような固さがある。
・原住民達は、バターで商売を行っている。
・食用にしたり、体に塗りつけたり、燃やして灯りにしている。
・痛みや傷に効く薬になる。
・蝋にシア・バターを混ぜ、硬練り膏薬として用いられている。
・種子は、素焼きのかめに入れてヨーロッパに輸送しなければならなかった。保存がきかないため発芽力を失ってしまうからである。

《野生のカリテは絶滅危惧種》

西アフリカ7ヶ国のシアナッツの生産量は、1980年には346,713トン、輸出量は81,863トンであったが、2002年の時点では、生産量645,000トン、輸出量は70,215トンとなっている。

例えば、ベナンの場合、1998年において、12.100トンの種子を輸出し、13億8千万FCFAを稼いだ。種子の輸出量は、毎年、6.500~15.000トンの間を変動する。

化粧品会社と製薬会社は、毎年、2,000~8,000トンのシア・バターを消費しているが、その量は増加している。

野生のカリテは、野焼きや経済を優先した過度の収穫により、現在、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されている。

ラッパーのKaraは、この問題を歌にしようとしていたのかもしれない…

参考文献・Webサイト

・『Arbres, arbustes et arbrisseaux nourriciers en Afrique occidentale』 Michel Baumer Enda-Editions

・beurredekaritébio.com

・『マリの女性とシアの木』-シアバター生産組合による生活改善と女性の地位向上-園部裕子

・『バージンシア・バターを巡る旅』生活の木ライブラリー

・蟲ソムリエ.net by おいしい昆虫生活

・『三大陸周遊記』イブン・バツータ 前嶋信次 訳 (河出書房新社)

・『Voyage à Tombouctou』 René Caillé (LD/La Découverte)

・『ニジェール探検行』マンゴ・パーク 森本哲郎・廣瀬裕子 訳  (河出書房新社)

・2006年10月17日付 朝日新聞

・2007年2月12-26日付 Thiof

4件のコメント

シアバターの木初めて見ました。(写真ですが)。これからもいろいろな木を紹介してください。

コメントありがとうございます。
日本には無い、珍しい木を紹介してゆきます。御期待ください。
今後とも引き続きフォローをお願いいたします。

これがシアバターの木なのですね。
大変参考になりますので、これからの記事を楽しみにしております。
また、この樹皮がこのような効能があるとは驚きで、それが伝えられていることもです。
アフリカに行った際には、赤痢に気を付けなければ ですよね(経験者)。
困ったら、書いてあることを参考に飲んでみます。

コメントありがとうございます。
アフリカの人たちは身近にある樹木や草木の効能に大変詳しいです。
先祖代々の言い伝えを信じて実行していますから、実績はあると思います。
薬が手元に無い時、応急処置的に服用するのも手かもしれません。
ただ、シアバターの木はどこにでもある木ではないのでご注意ください。
今後ともフォローをお願いいたします。

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