アンタ・ジェルメヌ・ゲイ Anta Germaine GAYE
1953年サン・ルイに生まれる。
ダカール・シェイク・アンタ・ジョップ大学文学部近代文学科卒業
芸術教育高等師範学校(ENSEA)卒業。
画家の傍ら、定年まで中学校の美術の教師をしていた。
セネガルで最初の女性ガラス絵の作家。
4児の母。
母親は教育関係の仕事をし、父親はサンゴール政権下で、文部大臣、労働大臣、外務大臣などを務めた。父親から、画家になる事を猛反対されたため、ダカール・シェイク・アンタ・ジョップ大学文学部に入学。
卒業後の心境を彼女は次のように述べている:
「文学部を卒業しましたが、文学を教える先生になる気は全くありませんでした。私は文学が好きで、文学少女だったと思いますが、何かが足りないと思っていました。どちらかと言えば、美術の方面に進みたいという気持ちが強かったと思います。画家になるのか?デッサンをするのか?物書きになるのか?私の心は揺れました。そして決心しました。私は先生になるが、それだけをやるのではない。アーティストとして美術にも関わりたい。私は、美術学校に行き、美術の先生になることに決めたのです」
こうして、彼女は、ENSEA(芸術教育高等師範学校)の試験を受け合格した。
ENSEAでは、ガラス絵の技術を学んだ。まず、ガラス絵の制作から始め、次に彫金、そして陶芸の制作を行った。
彼女は、ただ単にガラスに絵を描くのではなく、エマーユ(七宝)、鉄板、陶器などを組み合わせて作品を作っている。
当時を思い出して彼女は言う:
「昔は、公務員になる事は花形職業の1つでした。それに対して、芸術家になることは、まさに《カミカゼ(神風)=自殺行為》の選択でした。最初父親は芸術家への道を認めませんでしたが、4年後に、私の仕事を見て才能を認めてくれました。それからは、家族は私を応援してくれるようになりました」
現在の彼女の生活は、彼女の言葉を借りれば、「卵のように満ちている」とのこと。ワークショップ《鉄とガラス》を運営し、ダカールの中学校で美術を教え、妻として母としての役目も果たしているようだ。
「私は現代的な女性です。既成事実に問題を投げかけることに躊躇しません。若干、アヴァンギャルドですが、伝統的な女性です。形式的なものは拒否します。私が信仰する宗教は私のような姿勢を勧めています。」
「社会的重圧は耐え難いものですが、造形美術への情熱とイスラム教への信仰を両立させ、その中で、自分自身の心のよりどころを見出しています。それは、自分の子供であり、一般の子供たちです。私にとって彼らの存在は、私自身の根源に立ち帰り、私自身を開花させてくれる最も直接的で確かな道です」
筆者が彼女に取材した当時は、彼女はダカールの中学校の美術教師の傍ら、未来の子供たちのためのワークショップ《鉄とガラス》を運営していた。自分自身の創作活動も続け、芸術家として母として妻として多忙な生活を送っていた。そのため、彼女へのインタビューは、昼休み時間の短い時間に行われた
筆者:女性の肖像画を多く描いています。
アンタ:女性は、《美》と《道徳》の象徴と捉えています。肖像画に描かれている女性は、私自身であり、私自身を語り、私自身を表現しています。
筆者:あなたはセネガルで最初の女性ガラス絵作家ですね。
アンタ:ガラス絵は、私にとって宗教です。もし、ガラスの上に絵を描いていなかったら、それは私自身への裏切りです。
筆者:好きな画家はいますか?
アンタ:印象派の絵が好きです。ピカソの『アビニョンの娘たちDemoiselles d’Avignon』とサンゴールの詩『裸の女性、黒人女性Femme nue, Femme noire』の2つの作品が、私にインスピレーションを与え、新しい作品を創り出しました。
(ピカソが、アフリカの彫刻から影響を受けて描いた作品が、アフリカ人女性の彼女にインスピレーションを与え、新しい作品を創らせたことは、ちょっと面白い)
筆者:制作活動以外では、何をしていますか?
アンタ:私は、オペラを聴き、詩を読み、そしてモスクでお祈りをします。
サン・ルイ・ジャズ・フェスティバルで聴いたジャズからインスピレーションを受けた作品もあります。
日本の生け花にも興味があります。日本の文字にも興味があります。
マグリット・デュラスの『モデラート・カンタービレ』のエクリチュールは、自分の作品の⦅指標⦆として存在しています。
筆者:母親であり、妻であり、アーティストであり、生活が充実していますね。
アンタ:夫は、社会心理学者で、寛大で素晴らしい人です。子供達の面倒もよくみてくれます。二人でいろいろな事を話します。私の作品に対する感想も言ってくれます。私は、運が良かったと思います。不満も言わないし、私を非難するのは、ほんの2~3の些細なことです。夫と一緒に生きていることが、私を勇気付けてくれます。50歳を過ぎたら、私たちの出会いが美しかったと肯定できると思っています。人は誰も、なぜその人を選んだか、なぜその人と一緒に居たいのかをよく分かっています。
筆者:作品を製作するうえで大切にしていることは何ですか?
アンタ:私は物や出来事や人に対し先入観を持ちません。『音楽の木』という作品を制作しましたが、もし、先入観を持っていたら、この作品を創ることはできませんでした。
『互いに引き付け合う対立』という表現があります。《硬》と《軟》、《闇》と《光》は共存しています。私は際限なく、インスピレーションに任せ、闇と光を対峙させ、モノクロの世界を構築しています。
芸術家は、社会の考えと価値を牽引する存在ですので、その責任を自覚しなければならないと思います。
彼女は、現在、子供たちの作品を展示する『鉄とガラス』のワークショップを運営し、ガラス絵の魅力を伝える一方、子供たちの才能の発掘と育成に力を入れている。
ワークショップは、「自然と環境の保護」を活動方針とし、子供たちが廃材を利用して作品を作りながら、再利用された物が環境を保護し、「美」のオブジェに変身してゆくことを学ぶ場となっている。
彼女の夢は、ダカールに「現代美術館」を建設することだそうだ。
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