セネガルでは主に次の雑穀が作られている:
1.モロコシ(ソルガム)
2.サーニャ
3.トウジンビエ
1.《モロコシ(ソルガム)》バシ Basi
イネ目イネ科
学名:Sorghum
同じモロコシの仲間で、ンジャハナートNjaxnaat(Sorghum cernuum)やティニュTiñ(Sorghum margaritiferum )という種類のモロコシもある。
原産地は熱帯アフリカで、エチオピアを原産とする仮説が有力。早い時期に西アフリカ、北アフリカ、インドへ伝播した。
紀元前3000年以前から西アフリカで育てられていた。
アフリカで最も大規模に栽培されてきた穀物。
穂に付いている実はトウジンビエよりも大きい。
茎や葉は家畜の飼料となる。乾燥した茎は燃料や、小屋の壁材に使用される。
播種(はしゅ)から収穫までの期間は4ヶ月。セネガルでは、11月中旬に収穫する。
見た目はトウモロコシに似ていて、日本ではタカキビとも言われる。
中国名は、「コーリャン」。
高温や乾燥に強く、成長に多くの水は不要。水を与えなくても大きく育つ。深刻な水不足でも立派に育つ。
現在、フランスではトウモロコシなどに代わり、モロコシの作付けを推奨する動きがある。
白米の4倍の食物繊維が含まれている。カルシウム、鉄分、マグネシウムなど人間の体に必要なミネラルも豊富に含有していて、ビタミンE、ビタミンB6を始めとするビタミン類やたんぱく質も多く含んでいる。グルテン・フリーの食物。
たんぱく質が多いので、ハンバーグにすると大変おいしい。
セネガル人は、かつて、このソルガムを食べていたが、トウジンビエ(スーナ)の方が味が良いからと、トウジンビエを好んで食べる。
ソルガムは、『天敵温存植物』と言って、アブラムシなどの害虫を引き寄せ、そこに天敵のテントウムシやアブがやって来て卵を産み付け、その幼虫がアブラムシを食べる。その後、天敵たちは畑に移動し、野菜につく害虫を食べてくれる。このようにソルガムは害虫対策に利用されている。
2.《サーニャ》Sagna
鳥が来ても、鳥の目を突いて、実を食べられないようにトゲがついている。
サーニャに脂質が多く含まれるので、クスクスを作る場合は、サーニャ2に対し、トウジンビエ1を混ぜて作る家庭もある。
タンバクンダの農村では、12月頃収穫を行う。
3.《トウジンビエ》スーナ Suuna
イネ目イネ科
学名:Pennisetum glaucum
フランス名は、Mil à chandelle (ローソク形のヒエ)。
ウォロフ語の「ドゥグブDugub」は、雑穀の総称を意味するが、「トウジンビエ」自体を指すこともある。
西アフリカの野生の草を起源とするトウジンビエは、4000年以上前、まだ緑の大草原であったサハラ砂漠の中心部で栽培化され、そこから東アフリカへ、さらにインドへと広がっていった。
アフリカ・サヘル地方では、トウジンビエが主食になっている。
播種(はしゅ)から収穫までの期間はおよそ3ヶ月。夏作物として栽培される。
セネガルは6月下旬から9月の下旬まで雨期となり、農民は、収穫した穂を約1ヶ月間天日干しするので、雨期が始まったらトウジンビエの種まきを行い、乾季が始まる10月から11月までに収穫を終えるようにしている
(早く種まきをすると、雨期が終わる前に収穫することとなり、穂を天日干している最中に雨が降り、穂が濡れてしまう危険性があるため)
天日干しした穂は、穀物倉に保管される。
(『日本料理由来辞典』によると、ヒエは10年以上たってもあまり変化がなく、貯蔵性が高いため、日本では、凶作の年の食料として重用されたという。ヒエを粉砕してヨモギの若芽などを入れた団子として食べられたようで、ヒエ飯としては調理されなかったようである)
白米に比べ、トウジンビエは、食物繊維やビタミンEなどが豊富に含まれている。
また、9%以上のたんぱく質とアミノ酸をバランス良く含む優れた食材で、油分が多い「高エネルギー」穀物でもある。グルテンはない。
脂肪は約5%含まれている。これは、標準的な穀物に含まれる量のおよそ2倍である。
ビタミンAは非常に優れている。リン、鉄、カルシウム、銅、鉛、マンガンなど、さまざまなミネラルが多く含まれている。
トウジンビエは米や小麦よりも栄養的に優れている、と言える。
収穫を終えたトウジンビエの茎や葉を飼料として、畑内で牛を放牧させる。その時期に牛より排出された糞は、来期の作付けの重要な肥料となる。牛は、富の象徴、食肉、牛乳の提供者であると同時に、肥料の提供者でもある。
やせた土地でもよく生産する。水はけのよいローム層で最も良く育つが、粘土質の土壌ではうまくいかない。乾燥に強い反面、水はけの悪い場所は生育に適さない。
一方で、イネの生長に悪影響を及ぼす、「田んぼの雑草」と見なされ、嫌われている。
トウジンビエは過酷な環境下でも育つ。
主要な穀物の中で、トウジンビエは極端な暑さと乾燥に耐えることができる穀物。
暑すぎたり、乾燥しすぎたりして収量が安定しない地域でも、確実に収穫することができる。
暑さと低気温の両方に耐えられる。
病害虫にも比較的強い。
日本穀物科学研究会前会長の瀬口正晴氏は論文の中で、「生命維持のための穀物の中で最も優れているのは、トウジンビエだろう。トウジンビエは過酷な環境下で育つ。主要な穀物の中で、極端な暑さと乾燥に耐えることができる穀物である。暑すぎたり、乾燥しすぎたりして収量が安定しない地域でも、確実に収穫することができる」と述べている。
モロコシ(ソルガム)よりもさらに乾燥に強く、モロコシ(ソルガム)の栽培できない地域でトウジンビエが栽培されることが多い。
セネガル東部のタンバクンダ州の小さな村を訪れた際、トウジンビエの畑の写真を撮った後、村人が、突然、地面を指差した。
そこにはアリの巣がぽっかりと空いていて、アリたちがせわしく行き来していた。
村人が筆者にこう言った。
「第2次世界大戦の時、この地方は飢饉になった。何も食べるものが無く、死を待つだけだった。偶然、アリの巣の中にたくさんのトウジンビエや米の穀粒を見つけた。みんなでそれを夢中で食べた」
筆者には返す言葉が見つからなかった。
セネガルは2008年に食料危機に瀕したため、食料危機対策として、伝統穀物の栽培の奨励を始めた。
ハタオリドリ Mange-mil
スズメ目ハタオリドリ科
学名:Ploceidae
仏名:Mange-mil、Travailleur à bec rouge、Quelea quelea
トウジンビエ、モロコシ、米などの穀物を食べるアフリカの害鳥。昆虫や果物も食べる。
しばしば大きなコロニーを形成し、集団で生息している。
フランス語の名前は、文字通り、《雑穀を食う》という意味だが、ハタオドリは特に米を好んで食べる。
食べ物を求め、集団で1日10.000kmを難なく飛び回ることができる。
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