《クスクスが出来るまでの全工程》
1. 6月中旬。雨期が始まったら、種まきを行う。
2. 10月。収穫を行う。
3. 穂を天日干しにする。
4. 11月初旬。穂を穀物倉に保管する。害虫もあまりつかず、長期間の貯蔵ができる。
5. 朝早く、穀物倉から必要な分だけトウジンビエの穂を取り出す。
(1) ひもを2つに曲げて頭に巻き付ける。
(2)その分の長さのひもを地面に広げる。
(3)頭の円周の2倍の輪の中にトウジンビエの穂を置く。これは大体、家族4~5人分で3日分に相当する。
必要量を頭の大きさで測るというのは、まさに《頭を使った》先人たちの知恵と言える。
子供たちはよく生のまま穂をかじって食べている。筆者も食べてみたが、雑穀の野性的な苦みの中に、ほのかな甘さがあった。
6. 畑仕事に出る前に、ムシロの上に穂を置いて天日干しをする。
7. 臼の中にトウジンビエの穂を数本いれ、脱穀をする。(穂を杵で搗いて穀粒を穂から取り離す作業)
杵搗きは、女性の仕事で、男性はやらない。女性にとって過酷な労働である。
女性たちは、杵を宙に放り上げ、杵が戻ってくるまでに、両手をパンパンと2回ほど叩いたりして、まるでショーを観ているかのようなパフォーマンスを行う。また、杵が臼の中に落ちると、臼の両端をトントントンと3拍子のリズムを取ったりするのも、リズミカルで面白い。
秋になると村中に杵の音が聞こえてくる。
8. 臼の中で穀粒を搗いて、ふすま(チョホCox)を取る。この動作をウォロフ語でソックSoqという。
9.搗いたものを風選し、ふすまを飛ばす。
10. 穀粒をふるいにかけ、水洗いし、乾かす。
11. 洗った米(安価な割れた米、破砕米Riz brisé)を少し加えると、トウジンビエの味がよりおいしくなるという。ハイブリッド米?
12. 穀粒を臼の中で搗いて粉にする。これをふるい(タメ・サンハルTame sanqal )にかけて細かい粉だけを取る。
細かい粉をスングフSungufと言い、ふるいに残った粗びきの粉は、サンカルSanqalと呼ばれ、ラーハLakh(雑穀のおかゆ)などに使われる。
13.現在は、農村の多くの女性が粉屋さんに頼んで、穀粒を製粉機で粉にしてもらう。
機械に2回通す。1回75FCFA(約15円)。粉になったものを、スングフSungufと呼ぶ。
ただ、機械に通すと、油の匂いが粉に残り、美味しさが半減すると、機械に通すのを嫌う男性が多いという。
14. 粉を家に持ち帰ったら、炭を入れてしばらく置いておく。これは、ヤモリが粉を食べないようにするため。
15. 粉を必要な分だけふるいにかける。
16. 全体をよくかき混ぜる。
17.少しずつ水を入れ、手で粉を混ぜる。
18. 容器にスングフの粉を入れ、少量の水をふりかけながら、円を描くように手早くかき回し、手で粉を擦るようにしてこねると、粉が粒状になってゆく。
粗い目のふるいを通した大きな粒はアラウArawと言い、その作業自体もアラウと呼ばれる。アラウの粒は、蒸さないでそのまま調理することが多い。フォンデFondé(おかゆ)やルイRuyに使われる。
手でかき回して小さな粒状にした粉は、モーニュMooñと呼ばれ、それを作る作業自体もモーニュMooñと言う。この作業は30分ほどかかる。
手のかき回し具合でチェレの味が変わる、というくらい大切な作業。この作業には経験とテクニックが必要で、女性達は小学生くらいからまねごとで習い始める。小さな粒状になるまでに実際に何度もやらないとテクニックを体得できないという。ダカールに住む若い女性達はこれができない人たちが増えているようである。
手で円を描くように粉をかき回す動作と、くねくねとセクシーに腰を振る動作が、「モーニュMooñ」という女性たちのダンスになった。(当方ブログ記事『ダンス』の「モーニュ」参照)
上記BのスングフSungufの粉を手でかき回して粒状のクスクスにするが、その際、丸めた粒のサイズによって次のように名称が変わり、用途が変わる。
(1) アラウAraw:粗い目のふるいを通した大粒のクスクス。粉粒のサイズが5mmくらい。フォンデFondéやラーハLakhに使われる。
(2) チャクリCakri:粒のサイズが2~3mmくらいの中粒のクスクス。チャクリCakriやンガラハNgalakhなどに使われる。
(3) モーニュMooñ: 粒のサイズが1mmくらいのきめ細かい小粒のクスクス。このモーニュを蒸したものをチェレCereと呼び、下記で説明するチェレ料理全般に使われる。一般に、このチェレを使った料理のみを「チェレ料理」と呼んでいる。
19.モーニュで粉を小さな粒にした後は、夕方まで天日干しをする。
20. 天日干しが終わったら、蒸し皿の上に布を置き、そこにモーニュを均一に載せて布で覆って蒸す(タイTay)。(鍋と蒸し皿が接する部分にモーニュの粉を粘土のようにして詰め、蒸気が逃げないように隙間を埋める)
21.蒸したモーニュは「チェレ」という呼び名に変わる。これを容器に移し、おたまなどを用いて全体をゆっくりとくずす。
22.ふるいにかける。
23.水を少しずつかけながら、チェレを手でよくかき混ぜる。
24.もう一度チェレを蒸し皿の布の上に載せ、包んで蒸す。
25.蒸したチェレを容器に移し、ラーロ・ンベップを混ぜる。
ラーロとはウォロフ語で「チェレのつなぎ・結合剤」という意味で、これをチェレの中に加えることにより、とろみが出て、細かい粒状の粉の舌ざわりが滑らかになり、呑み込みやすくなる。ラーロ・ンベッブ( Laalo m’béb)とラーロ・グイ(Laalo guy)の2種類がある。1つの料理に2種類のラーロを使う家庭もあれば、どちらか一方を使う家庭もある。
ラーロ・ンベッブは、アオギリ科ピンポン属の ンベッブ(学名:Sterculia setigera)という木に傷をつけ、ゴム状の樹液(ラーロ・ダッカンデ Lalo dàkkaande)を採って乾燥させ、杵で搗いて粉末にしたもの。前もって水またはお湯に溶かし、スプーンでよく混ぜて山芋のようにねばねばした状態にしておき、チェレに混ぜる。レブー族の人達がよく使用する。
(学名は、葉と果実に悪臭があることから、ラテン語のStercus「糞」に由来する、ローマ神話の便所の神、「Stericulius」に因むものである。
一方、ラーロ・グイは、ラーロ・バオバブとも言い、バオバブの若葉を乾燥させて杵で潰し粉状にしたもので、ねばりの成分がある。チェレに混ぜて蒸すととろみがつき、呑み込み易くなる。また、これを水に溶かさず、盛り付け前にそのままチェレにかけて混ぜることもある。ラーロ・グイ自体はほのかに甘い味がする。
セレール族の人達はラーロ・ンベッブがヘルニアの原因になると言って、むしろラーロ・グイを好んで用いる。
都会では、ラーロ・グイよりもラーロ・ンベッブの方が手に入りやすいのでラーロ・ンベッブを使用する人が多いが、ラーロ・グイの方が味が良いので、できるならばラーロ・グイを使いたいと言うのが本音らしい。
チェレは、ラーロを入れるか入れないかで、チェレ・ラーロとチェレ・チャク(Cere Caq)に分類される。
チェレ・ラーロは、ラーロを加えたチェレを指す。主に肉や野菜を煮込んだソースをかけて食べるが、牛乳のみをかけて食べることもある。
一方、ラーロを一切入れないチェレ・チャク(Cere Caq)は、肉や野菜の煮込みのソースはかけず、主にソーウSoow(ヨーグルトのような凝乳)や牛乳をかけて食べる。すぐに食べない場合は、大きな布またはむしろの上に広げ、風通しを良くして乾燥させておく。
26. ラーロ・ンベップを混ぜたチェレを蒸し皿に移し、もう一度蒸す。
27. 蒸し終わったら、これでクスクスを作る作業は終了。これを皿に盛り、別に調理したソースの肉や野菜を盛り付け、クスクス料理が完成する。
(チェレは出来たてが一番おいしい!)
以上がクスクスが出来るまでの全工程だが、農家の女性は、これらの作業の他、水汲みや畑仕事や炊事・洗濯などがあり、朝5時から夜の11時まで重労働の連続である。
すでに精米された状態で市場で売られている米が、彼女たちを過酷な日常から解放した功績は大きい。
チェレは一回作ると、ラーロを入れなければ1~2週間保存できる。食べる時は、必要な分だけを手ですくってサッとお湯をかけ、固くなったチェレを戻す。冷めた頃に、作ったソースをかけて食べる。
残ったチェレを翌日まで保存することを、ウォロフ語でパンヌ(Pann)と言い、保存したチェレ自体もパンヌという。このパンヌを朝食として食べることがある。
都市部の下町に住む人達は、チェレを始めから作る時間を節約するため、チェレを1週間分作り置きをし、必要な分だけを取ってお湯をかけて食べたり、または、できあいのチェレを買って調理している。
最近は、フリーズドライのアラウやチャクリがビニール袋に包装され、市場やスーパーで売られている。
市販されているインスタントのチェレを試しに使ってみたが、チェレに歯ごたえがない。チェレの風味を味わう暇もなく、するっと喉を通り過ぎっていってしまう感じだった。
探検家のマンゴ・パークは『ニジェール探検行』でクスクスが出来るまでを詳細に記述している:
「脱穀するには、パルーンと呼ばれる大きな木製の臼が用いられ、この中で穀物をついて外皮を取り、それを風にさらして外皮を吹き飛ばす。ちょうどイギリスの小麦の脱穀法と同じである。外皮を取った穀物は、再び臼に移され、搗いてあら粉にし、国によってさまざまに調理される。ガンビア川流域の地方で最も多い料理はクスクスと呼ばれる一種のプディングである。その作り方は、まず粉に水を加え、ひょうたんに入れて粘りが出るまでよくかき混ぜ、サゴ(サゴヤシから出る澱粉)にする。つぎにそれを素焼きの壺に入れる。この底には小さな穴がいくつかあいている。この容器を二つ重ねて、水でといたあら粉、または牛糞で重ね目を封じて火にかける。下段の容器には、普通なにかの肉と水が入れられ、その蒸気が上の器の穴を通して上りクスクスをつくる。これは、私が訪れた国々では、大いに重宝がられていた。きくところによると、バーバリー海岸(アフリカ北部海岸)で同様な調理法が用いられ同じくクスクスと呼ばれているということで、おそらくニグロがムーア人からこの調理法を学んだのであろう」(森本哲郎・廣瀬裕子訳)
トウジンビエは、脱穀し、ふすまを取り除いた後の処理の仕方によって次のように分類され、名前が変わる:
A.サンカルSanqal : 杵で搗き、ふすまを除去してから、粗い目のふるいにかけた粗びきの穀粒。粒状にしたり蒸したりしないで、そのまま茹でて使う。ラーハLaax(おかゆ)やラフ―・チャーハーンLaxu caaxaan(ビサップのクスクス)に使用される。
B. スングフSunguf:杵で搗き、ふすまを除去してから、細かい目のふるいを通した粉粒または製粉機にかけてできた粉。
この粉を手でかき回して粒状に丸め、下記で説明する大粒のアラウ、中粒のチャクリ、小粒のモーニュにする。