セネガル相撲

《セネガル相撲を観戦する前に知っておきたい2,3の事柄》

セネガル相撲の試合は、他のスポーツと比べ、独特の雰囲気の中で行われる。

試合前に行われる呪術儀式やおまじないにはそれぞれ意味があり、その事を知っておくと、セネガル相撲の文化がよりよく理解できる。

バク(Back)

試合当日、力士は歌を歌い、独特のダンスを踊りながら従者と共に闘技場に入場する。この時に歌う歌、ダンスをバクという。

歌は、自画自賛の歌で、タムタムの太鼓と観客の歓声の中で、自分の戦績を歌いあげ、過去に打ち負かした力士の名前を列挙して相手の力士を威嚇する。

力士が自身の士気を高め、相手の戦意を喪失させて、勝利と栄光を勝ち取るためのパフォーマンスである。

ファラングなど往年の力士達は、バクのエキスパートとして有名だった。彼らにとって、バクは相撲の一部だという。

最近の力士たちは、バクにあまり重要性をおかなくなっている。セレール族の力士やジョラ族の力士には、バクの伝統がなく、タムタムのリズムにのってダンスを踊るだけである。

力士は太鼓グループ(サバール)のところに到着すると、太鼓にロープを巻き付け、呪文を唱える。マンガⅡは、この時、白鳩を放ったことがある。

バクの例

凝乳(牛乳を発酵させヨーグルト状にしたもの)(Soow)を頭にかける。

凝乳は聖なる魂が宿り、神の力を秘めたものとされている。

また、小麦粉を顔に塗り付ける力士もいる。

日本と違って、塩はまかない。

1. 凝乳を頭にかける
2. ロープを掲げ四方に祈る

3. 歌を歌い、ダンスをしながら行進する

4. 太鼓奏者のところに向かう
5. 太鼓にロープを巻き付ける

6. 呪文を唱える

サファラ(Safara)

マラブー(イスラム教の導師)がまじないをかけて、植物の根から作った液体。ビンやプラスチック容器に入っている。

力士は試合前に、体に浴びたり、飲んだりする。こうすると、相手から放たれる邪気を祓い、精霊が力士を守ってくれると言われている。

また、この液体は力士の心理に重要な役割を果たし、気持ちを落ち着かせたり、闘争心を高めたりする。

色々な液体のビンがあり、力士の従者は、力士が間違わないように気を使っている。かつて、ある力士が、顔を洗う液体を誤って飲んでしまったことがあった。

グリオ(Griot)

楽器のコラや、太鼓や、バラフォンを演奏しながら、村や部族の伝説や歴史を歌や語りで伝える口承伝承者。競技場では、グリオたちは、太鼓やダンスに合わせて力士の勇猛さを称える歌を歌い、力士を鼓舞し、激励する。

一般的に、来賓者の横に座り、「ンダウラビンndawràbbin」という歌を歌う。

(グリオは相撲の試合以外は、葬式、赤ちゃんの命名式、結婚式にも出席する)

グリオは、試合前に力士を精神面でも支え、例えば、力士にこう歌いかける:

「あなたのおじいさんは不名誉よりも死を選んだ。

あなたのお父さんは決して地面に背中をつけた事はなかった。

だから、今日の夕方、あなたは敵に勝つ」

モティベーションが高まった力士は、ダンスをしながら答える:

「俺を倒すかもしれない奴の母親はまだ生まれていない」

そして力士の側近がこう歌う:

「あなたの言う通り。奴の母親はまだ生まれていない。

あなたの言う通り。奴の母親はまだ生まれていない」

グリグリ(Gri-gris)およびタリスマン(Talisman)

力士は、相手から放たれる邪気を祓う(払う)ため、グリグリと呼ばれる御守りを首、腕、手首、腰、足、膝、太もも、頭、額ににつける。

グリグリは、猫、ライオン、猿、ヒョウなどの動物の革と白色や赤色や黒色の布でできている。

手足や胴体にはひも状のグリグリをつけている力士もいる。

グリグリをつけていれば、ナイフで刺されても体の中に入らないという迷信がある。

伝説の力士ファラングは、「もしグリグリで相手を倒すことができるなら、誰もが力士になれるだろう。グリグリは、ただ単に力士に自信を与えるだけなのだ」と、グリグリの効果には懐疑的だった。

(グリグリについては、本ブログの「グリグリ」の項も御参照ください)

呪術儀式 (Rites mystiques)

闘技場に到着すると、力士はマラブーの忠告に従って呪術儀式の準備を従者と一緒に行う。

呪術儀式は、試合前および試合中に、相手を一時的に無力化するために行われる。

力士にとって、肉体的および技術的鍛錬も重要だが、呪術儀式も重要な要素の一つで、力士たちの精神面に深く根をおろし、困難を克服する力を与えてくれると言われている。

力士はバクで、太鼓グループのところに到着すると、太鼓にロープを巻き付け、「試合中、ケガをしないように」「強い体力と精神力を授けてくれるように」と呪文を唱え、祈る。

以下に記した呪術儀式は例として示すもので、常に行われるのではない。力士やマラブーによって儀式のやり方は異なる:

・伝統的に力士たちは手の中に動物のツノ(精力と体力の象徴)を持ち、すべての方角に向かってお祈りをする。

・マラブーは、力士を勝利させるため、動物のツノ、卵、粉、煎薬、聖水、鳩、鳥、ヘビ、その他の生き物を闘技場に持って来ることがある。

・力士が闘技場に入る前に、ニワトリやその他の動物を殺し、その血で地面を清める。

・ムスタファ・ゲイは小さな水瓶を頭に乗せ、それを地面に叩きつけて割っていた。こうすると、肉体が傷つかないと言う。

・力士はマラブー(イスラム教の導師)の後について闘技場の中央に進み、《闘技場の神様》に捧げる呪文を唱える。ロープを持ってお祈りをし、それを体にしばる。

・マラブーは、闘技場中央で火をつけ、特別なチュライ(香)を入れ、悪霊を追い払う文言を書いた紙、または、コーランの章句を書いた紙を燃やす。こうすると、悪霊の呪縛から解放されると言われている。

・力士の家族やサポーターたちは、家でかまどに炭をおこし、まじないの文言を書いた紙を燃やし、敵が倒れるように祈る。

2010年に行われた雑誌の読者アンケートでは、「呪術儀式に最もこだわっている力士は誰か?」という質問に対し、1位はイェキニだった。

マラブー(Marabout)

力士は、精神的なプレッシャーを受けるため、『苦しい時の神頼み』ではないが、何としてでも、勝ちたいという気持ちが強くなり、マラブー (イスラム教の導師) に助けを求めることになる。

力士は呪術儀式の準備をマラブーに要請する。マラブーは試合の際に取るべき行動を力士にアドバイスをする。

例えば、相手がパンチ攻撃が強い力士と分かると、相手の両腕が麻痺するようマラブーに頼む。また、信頼するスタッフを近隣の国に送り、珍しい鳥を捕って来させたり、遠方に住むマラブーに頼んで霊験あらたかなグリグリを送ってもらったりする。

力士とマラブーは、金額に関する契約書を取り交わすと同時に、数年間有効な信頼協定書も締結する。

力士は報酬の多くをマラブーに費やすと言われている。特に試合前には、マラブーに高額の報酬を支払う。

試合前は、力士はマラブーの指示に完全に従い、マラブーが準備した飲み物を飲み、動物を殺したりする。

力士は負けると「マラブーに裏切られた」と非難するが、マラブーは、「力士が命令をまもらなかったからだ」と反論し、場外乱闘が始まる。

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