セネガル相撲

《殴り技を伴う相撲の試合》

1987年から12年間《闘技場の王者》だった相撲界の巨人マンガⅡと、相撲ビジネス界に革命を起こした風雲児タイソンとの「世紀の対決」が、1999年7月4日、《殴り技を伴う相撲》形式で行われた。

場所は、レオポルド・セダール・サンゴール国立競技場。土嚢で直径15mの土俵がつくられた。(土俵は土嚢で作られているので、セネガルでは「土俵」とは言わずに、「土嚢」と言ったほうが正しいかもしれない。あー、ややこしい)

格闘時間は、かつては、15分間3回戦の合計45分だったが、ルールが改定され、10分間2回戦となった。

ダカール市内の街角にポスターが貼られると、人々はワクワクし始める。

入場料は、2,000~10,000FCFA(約400円~2.000円)。今回は、チケットが布で作られた。

この歴史的な試合を取材するにあたり、CNGに撮影許可の申請をしたら。写真撮影許可料は50,000FCFA(約1万円)、ビデオ撮影許可料は100,000FCFA(約2万円)だった。

当日の競技場には、伝統的な服でおしゃれをし、装飾品を身に付けておめかしをした女性達ドリアンケ(Drianké)がやって来てくる。そのエレガントな姿を見るのも楽しい。

『Relax Magasine』より転載

金持ちの商店主は、ひいきの力士に、ラジオやテレビや航空券をプレゼントするという。

王者決定戦の熱狂を写真だけでは伝えにくいので、ここからは絶叫アナウンサーが実況中継を進めてゆく。

実況中継 キュー!

「今日は、雨季にもかかわらず、青空がかろうじて見える天気です。座っていても汗がじっとりと出てくる、湿気が多い空気です。」

「今日の観客数は35.000人と発表されています」

「相撲を木の上で観戦する癖がついている人達でしょうか」

「27歳のタイソンが、果たして42歳の《闘技場の王者》マンガⅡを倒すことができるのか?世代交代となるのか、乾坤一擲の大試合が間もなく始まります」

「観客の中には、ドリアンケの美しい姿も見られます。まさに戦場に咲く花たちです。ウ~ン、ベリッシマ!」

「ダンスグループ《Battle-Dress》の華麗なるダンスが始まりました」

「下町のダンス『チェブジュン』を踊っています。私も踊れます」

「激しい太鼓サバールのリズムは、今か今かと闘いを待つ、私たちの心臓の鼓動そのものです」

「セネガルの伝統打楽器タマの名手、ユッスー・チャムは、雨季の空を突き破るような強烈なリズムを叩きだしています」

「セネガル女性歌手の大御所、キネ・ラムが見えます。最近はヒット曲はありませんが、存在感は変わりません」

「ヒット曲Karo Yala」を歌った、カール・ンバイ・マジャガの姿もあります」

「あ?あれは誰でしょう。ユッスーです!スーパースター、ユッスー・ンドゥールです!これはビッグ・サプライズ!」

「セネガルの国旗の服をまとっています。すごい!この服は、緑・黄・赤 + 星の印があるセネガル国旗です!手元の資料では、あの有名デザイナー、デュマ・ジェン・ジャカテの製作ということです」

「あ、セネガル国家を歌い始めました。セネガル国歌はもともとフランス語で歌われるのですが、ユッスーはウォロフ語で歌っています。これは驚きです!」

「国歌の次に、ユッスーが歌っているのは最新アルバム『Le Grand Bal』。『仕事をする者は必ず恩恵にあずかる』『成功は努力の後にやって来る』『苦労は栄光に値する』というメッセージの歌です」

「キネ・ラムとユッスーのデュエットです。セネガルの2大歌手の共演です。何を歌っているのでしょうか?『二人の銀座』でしょうか?」(ソレハナイナ。古い!)

「な、なんと100人もいるでしょうか、マラブー達の入場です! マンガⅡをサポートするマラブー達のようです」

「マラブー達の行列の最後に、従者を引き連れたマンガⅡが登場!」

「今日まで12年間、《闘技場の王者》のタイトルを守り続けた貫禄のマンガⅡ!」

「マンガⅡがバクを始めました。セレール族の力士にはバクの伝統がなく、タムタムのリズムにのってダンスを踊るだけです。」

「マンガⅡが太鼓にロープを巻き付け、何か呪文を唱えています」

「マンガⅡはこの後、白鳩を放ちました」

「おや? 韓国製の車、Hyundaiが現れました」

「乗っているのはどうやらタイソンのようです」

「タイソンはいつものようにアメリカの国旗を身にまとっています」

「タイソンのアメリカの星条旗の服装は、タイソン自身によると、アメリカのショーを意識しているからだとか」

「タイソンのバクが始まりました」

「新世代の力士が華麗なステップで、前へ前と進んで行きます」

「おや?今度はピカピカのメルセデスベンツがやって来ました。青いブーブーを着た老人は誰でしょうか?」

「あー!あの伝説の相撲チャンピオン、ファラングの登場です!彼は、1999年に20世紀の最優秀スポーツマンに選ばれました。ファラングのこの登場は、彼の相撲に対する不断の努力と国民からの高い人気と、そして長いスポーツ人生へのオマージュです。彼こそが、この『世紀の決戦』の立ち会いにふさわしいアスリートです」

「マンガⅡはいよいよ戦闘準備に入りました。サファラ(まじないの液体)を頭にかけています」

「マンガⅡのマラブーは大量のカニを土俵の中にまいたようです」

「マンガⅡはドーパミンを高め、闘争心をハイにしています。横にいるマラブーは心配そうな顔をしています」

「…」

「…」

「さあ、マンガⅡはこれから土俵に向かいます」

「一方、タイソンはリラックスして、まだウォーミングアップをしています」

「タイソンが脱いだ靴は、従者が屈んで地面から離れないように地面の上を引きずって行きます。従者は、ひとたび闘技場内から出ると、何事もなかったように靴を手にぶら下げて持って行きます。これも勝つためのおまじないの一種です」

「タイソンがサファラ(おまじないの飲み物)を飲んでいます」

「あーっと、タイソンは何をやっているのでしょうか?」

「古い靴底の穴から、タイソンは勝利の女神を見ているのか?」

「タイソンの緊張感が徐々にこちらにも伝わってきます」

「…」

「…」

「…」

「…」

「おーっと!タイソンが筆者を睨みました。筆者に闘争心を燃やしているのでしょうか?(ソレハナイナ)」

「ゆっくりと深呼吸…かなりナーバスになっています」

「…」

「さあ、タイソンも土俵に向かいます!」

「両者、土俵の上に上がり、いよいよ天下分目の決戦の時がやって来ました。審判は力士の体を入念にチェック」

「軍隊も所定の位置につき、サポーターの突然の乱入に備えます」

「さあ、試合開始です!レイニー・シーズンのアバンチュールの始まりです!」

「両者、まずはレオトウから始め、相手の動きをさぐります」

「…」

「…」

「あ、タイソンが速攻でマンガの両足を抱えてマンガを倒した!攻撃技のリニャンヌです!」

「マンガ、耐える。タイソン、全体重をかけてマンガを押し倒す!勝利への架け橋だ!」

「タイソンの勝ち!タイソンの圧勝!」

「12年間王者として君臨してきた相撲界の帝王が、今、倒されました!」
「この瞬間から王者交替です!」

「誰がこの展開を予想したでしょうか?」

「これを奇跡とは言わせません!」

「これがスポーツの宿命です!容赦ありません」

「戦いは1分40秒でけりがつきました。タイソンの圧倒的な勝利でした!」

「タイソンはサポーターの乱入を恐れ、勝利の余韻に浸る間もなく軍隊に警護されながら競技場を後にしました」

「…」

「…」

「勝負はあっけなかったですが、後世に語り継がれる伝説の試合となるでしょう」

「ファラングは言っていました。『相撲は何はともあれ力の問題だ。技術や経験は二の次だ』と。 タイソンはその言葉を見事に証明しました」

実況担当は、ジャッキー・ミアでした。

興奮のあまり気絶したサポーター
歓喜するサポーター達

まさに熱狂的なお祭り騒ぎ

【感想】

とにかく、試合が始まるまでが長い。すべての前座の試合が終わってもなかなかお目当ての試合が始まらない。

子供の頃、日本の相撲は、制限時間いっぱいまでテンポがのろいと感じていたが、セネガル相撲を見て、日本の相撲の方がスピーディーで潔いと、考えを改めた。

試合後に泥棒や暴徒に襲われる可能性があるので、セネガル相撲を観に行く時は、必ずセネガル男性と一緒に行くことを勧める。

試合結果を第1面で伝える翌日の新聞

タイソン、マジック炸裂! ’ 《Le soleil紙》
タイソン、マンガを消し去る’《matin紙》

王者確定’《l’info紙》
タイソン神話’《Walfadjri紙》

タイソンよ永遠に’《Sud紙》

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